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浮気調査で見えた「本当の依頼」

  • 執筆者の写真: 茂夫 淡野
    茂夫 淡野
  • 3月25日
  • 読了時間: 3分

更新日:3月31日

 これは数年前に受けた、忘れられない依頼のひとつです。

 依頼人は30代の男性。会社員で、見た目も話し方もごく普通。ただ、最初に会ったときからどこか落ち着きがなく、指先を何度もこすり合わせる癖が印象的でした。

「妻の行動が、おかしいんです」

 いわゆる浮気調査の依頼でした。

 話を聞くと、奥さんはここ数ヶ月、帰宅時間が不規則になり、スマホを手放さなくなった。休日も「友達と会う」と言って出かけることが増えたとのこと。

 よくあるケースです。

 私はいつも通り、対象者の行動確認から始めました。

 平日の夕方、勤務先から出てきた奥さんは、まっすぐ駅へ向かう――かと思いきや、途中で足を止め、小さな路地へと入っていきました。

 その先にあったのは、古い雑居ビル。

 看板もほとんど出ていない、目立たない建物です。

 私は距離を保ちながら後を追いました。

 奥さんは3階で足を止め、迷いなく一室のドアを開けて中へ。

 出てきたのは、約2時間後。

 誰かと一緒ではありませんでした。

 数日間、同じ行動を確認しましたが、結果は変わらず。「特定の部屋に入り、ひとりで出てくる」それだけです。

 正直に言えば、この時点で私は少し違和感を覚えていました。

 浮気なら、相手の出入りがあるはずです。ですが、その気配がまったくない。

 そこで、ビルの管理会社や周辺情報を調べることにしました。

 その部屋は、あるNPO法人が借りているスペースでした。

 活動内容は――「家族介護支援」。

 さらに調べると、奥さんの母親が数年前に認知症を発症し、現在は施設に入っていることがわかりました。

 そして、あの部屋で行われていたのは、同じ境遇の人たちが集まる小さな会。

 いわゆる、家族のための“相談会”でした。

 奥さんは、誰にも言えずにそこへ通っていたのです。

 依頼人に報告する日、私は少し言葉を選びました。

 事実だけを伝えるのが仕事ですが、この件はそれだけでは終われない気がしたからです。

「浮気の事実は確認できませんでした。ただし――」

 私は、調査で分かった内容をすべて話しました。

 男性はしばらく黙ったまま、何も言いませんでした。

 そして最後に、小さくこう言いました。

「……気づいてあげられなかった」

 その一言で、この依頼の本質がすべてわかった気がしました。

 数週間後、その男性から短い連絡がありました。

「一緒に会に行くことにしました」

 それ以上の言葉はありませんでしたが、十分でした。

 浮気調査という形で始まった依頼でしたが、本当に必要だったのは「事実」ではなく、「気づくきっかけ」だったのかもしれません。

 探偵の仕事は、真実を見つけること。

 でも時々、その真実が誰かの関係を壊すのではなく、つなぎ直すこともある――

 そんなことを教えられた案件でした。


日本総合探偵事務所

 
 
 

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